定年後にかかるお金で、最もインパクトの大きいものは「健康保険料」ではないだろうか。少なくとも、僕の場合はそうだった。
定年の数年前のことである。定年後の生活費を試算するにあたり、「国民健康保険料」のシミュレーションをやってみた。画面に表示された「国民健康保険料」の試算結果を見て、僕は文字通り椅子から転げ落ちそうになった。「高い。高すぎる。さすがに、これは何かの間違いだろう……」そう思っていろいろな情報をあたってみたが、どうやら間違いなさそうだ。働いていようがいまいが前年の所得をベースに容赦なく賦課される。こんな高額な保険料なら健康保険に入らず、病院代を10割負担した方がマシではないか、とても合理性のある制度とは思えないぞ、本気でそう憤ったものだ。
実は若い頃に一時期だけ本当に無保険だったことがある。そんなときに限って歯が猛烈に痛くなり、歯医者へ駆け込んだ。保険証がないので10割負担。会計はびっくりするような金額。その帰り道、その足で国民健康保険に加入し、後日還付の手続きをした。さすがにこの歳になってまで、そんなバカな真似はできない。
定年後に再就職をしないのであれば、選べる選択肢は基本的に次の3つになる。
・国民健康保険に加入する
・会社の社会保険を「任意継続」する
・家族の社会保険の扶養に入る
まず「国民健康保険に加入する」。これは先述の通り、退職後しばらくの期間の保険料が制度のバグとしか思えない恐ろしい金額になる。しかも社会保険と違い、家族を扶養にすることもできない。とても進んで払う気にはなれない。
次に「会社の社会保険を『任意継続』する」。定年前は会社が半分負担してくれていた分も、自分がすべて背負うことになる。しかも調べた当時は、一度任意継続を選ぶと2年間は原則やめられない制度だった※。それではトータルでは国民健康保険を上回る出費になってしまう。
※2022年1月施行の健康保険法改正により、本人の意思で資格を喪失できるようになった
再就職はせず、失業給付(雇用保険)を受給することを固く心に決めていたのだが、「国民健康保険」、「任意継続」のどちらを選択しても失業給付では賄いきれない。だからと言って社会保険に入るためだけに働くのは嫌だ。となると、当時まだ大学生だった上の娘が就職したら、彼女の社会保険の扶養に入れてもらうしかない。頼むぞ、娘よ。
帰宅後すぐに、定年退職したら扶養家族にしてくれるよう、娘に頼んだのは本当の話だ。無邪気な娘は快諾してくれた。ところが思うままに行かないのが世の常。予定は未定であって決定ではあらず、であった。

